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読書

アルプス席の母
 高校野球をテーマに、選手たちを支える母親たちの視点から描かれた作品。
主人公の秋山菜々子は、息子の夢を応援するシングルマザー。
 しかし、高校生が野球に打ち込む純粋な姿の裏には、さまざまな思惑を持つ大人たちの影がつきまといます。
 高校野球は「青春の美しいドラマ」として語られることが多いですが、その舞台裏には、嫉妬や打算、屈託、そして怪我とお金といった現実的な問題が渦巻いています。
 菜々子は、息子だけでなく、チームの子どもたちを取り巻く環境に直面し、時にはその残酷さに心を痛めながらも、子どもたちを支えようと奔走します。
 本作の魅力は、単なるスポーツ小説にとどまらず、親と子の成長物語でもある点です。
菜々子は、時に無力感を覚えながらも、子どもたちが大人の思惑に翻弄されず、自分の力で未来を切り開けるように願い、支え続けます。
 一方で、きれいごとばかりではない高校野球の世界の中で、大人たちもまた、子どもたちのひたむきな姿に影響を受け、少しずつ変わっていくのです。
 物語のクライマックスでは、甲子園を目指して戦う子どもたちの姿が、菜々子の視点を通して描かれます。彼らの努力、仲間との絆、そして挫折と成長の過程が、丁寧に綴られ、最後には大きな感動を呼びます。
 高校野球の光と影、この物語を通じて影の見え方が少しずつ変化していくさまを楽しめる作品でした。
あっという間に人は死ぬから
 「私たちの身の回りは、生活を便利に楽しくしてくれるテクノロジーや生産性アップのライフハックであふれているのに、何となく本質的な悩みが解決されないまま時間だけが過ぎていってる気がする。」(原文より)
 この一節が示すように、本書は私たちの日常に潜む根本的な悩みに真正面から向き合う作品だ。書名からも分かるように、本書のテーマは「時間の有限性」と「人生の本質」にある。
 私たちの時間を食べつくすモンスターは、私自身が向き合わなければならない3つの理(ことわり)から目を背けていることに起因しているという。その理とは何か、そしてそれをどう受け入れるかについて、本書は科学的な視点を交えながら深く考察している。
 特に印象的だったのは、価値観の明確化と目標設定の重要性についての議論だ。本書は、ただ漠然と「時間を大切にしよう」と説くのではなく、具体的に「何を目標にすべきなのか」、「何をするべきか、何をしないべきか」にまで踏み込んでいる。そのため、実践的な指針として何度も読み返したくなる一冊である。
生産性向上に関心がある人はもちろんのこと、人生の意義や時間の使い方について悩んでいる人にも強くおすすめしたい。
悪逆
 過払い金請求詐欺、マルチ商法、カルト宗教——無辜の人々を騙し、私腹を肥やしてきた悪党たちが次々と殺されていく。
 正義とは言い難いが、どこか溜飲が下がるような犯行。そして、それを追う刑事たち。
 物語は犯人側と刑事側、双方の視点から描かれ、緻密に絡み合う。
 犯人はターゲットのみを的確に仕留め、計画的に捜査を攪乱する巧妙な手口で警察を翻弄。
対する刑事たちはわずかな証拠をもとに事件の真相に迫る。
 特に、ベテラン刑事・玉さん(玉木)は、関西弁の朗らかなキャラクターながら、直感と経験を駆使し、犯人の残した微細な綻びを見逃さない。彼を支える若手刑事とのコンビネーションも絶妙で、じわじわと犯人を追い詰めていく
 緻密な計画をもって次々と実行される犯行と、それを阻止せんとする刑事たちの攻防。二つの流れが絡み合いながら物語は加速し、最後まで予測不能な展開が続く。犯人の目的とは? 彼らは捕まるのか、それとも——?